遺体を入浴させる湯灌師 30代女性が志した理由

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湯灌師
「私でも誰かの役に立っているんだという充実感は、ほかの仕事では絶対に味わうことができない」
何人もの先輩が辞めていった。けれども一度この仕事に就いた人の大半が、この世界に戻ってくる(撮影/比田勝大直)

 

 

死を迎えた人を送り出すためには、様々な仕事が存在する。その中から、湯灌(ゆかん)師という職業を選んだ女性を取材し、仕事についた経緯などを聞いた。

今年33歳になる持井香恵(仮名)の仕事は、葬儀に際し故人(遺体)を入浴させ洗顔、洗浄を施す湯灌という仕事で、「湯灌師」と呼ばれる。現在、持井は、大手葬儀社の下請け業者として、遺族からの要望がある場合に限って自宅、もしくは病院、警察署などへ駆けつける。毎朝、定時に届くメールの送り主は元請けの葬儀社からで、今日、何体の湯灌を行うのかが書かれている。

この日、向かったのは、家族に看取られ老衰で大往生した87歳の女性の自宅。現場に到着するなり、もう一人の同僚と共に遺族に挨拶。すぐに作業の準備に取り掛かる。湯灌の基本的な手順は次の通りだ。

まず、通常のお風呂とは逆の手順で、持ち込んだ専用のバスタブに水を張り、給湯器で沸かしたお湯を注いで適温の状態を作る。大判のバスタオルで遺体を包むようにしてバスタブへ移動。専用のボディーソープを使って洗体後、洗髪と洗顔を行う。

終了後、再び遺体を布団へと移動させ死に装束を着せる。遺族の要望、故人の遺言などで生前に着ていたお気に入りの洋服や、ウエディングドレスを着せるケースも増えている。 そしてメーク。女性の場合、下地とファンデーション、最後に防腐効果のあるクリームを塗って終了。この時、細部まで色をならしておかなければ化粧は浮き、温かみのある肌の色は甦ってこない。全てが終わると、遺体を棺へと移す納棺の儀が執り行われる。

1日に対応する湯灌は最大5人。1人あたり1時間半で全てを終えなくてはならない。当然、全てが大往生とは限らない。自殺、事件死、孤独死、交通事故。中には1歳に満たない赤子や、警察の連絡で駆けつけた時には、腐敗が進み、生前の面影すら分からない状態の変死体に遭遇したこともある。今まで、不思議と腐敗臭を感じたことがない。脳がそれを受け付けない感覚なのだという。

「ご遺体って何かを物語るのです。無精ひげで爪が伸び放題。病院に入っていても家族とは疎遠だったんだなって」

持井が湯灌師の道を選んだのは4年前。当時、54歳だった父が交通事故で他界したことが関係している。それは、突然の出来事だった。長距離運転手だった父が、高速道路で発生した4台の玉突き事故に巻き込まれ死亡。事故現場が遠方だったため、亡骸(なきがら)は飛行機で輸送され里帰りを果たした。大学卒業後、葬祭ディレクターの仕事をしていた持井は、自分の働いていた会社に葬儀を依頼し、自分に父の葬儀の一切を取り仕切らせてほしいと談判、了承をもらった。

ところが、納体袋に入った父の亡骸は損傷が激しく腐敗も進んでいた。家族が父の姿を見るのはつらいと拒むほどの状態だったため湯灌をお願いすることに。葬儀当日、再会した棺の中の父は、不運の事故死を遂げたとは思えない安らかな顔に復元されていた。持井は感動した。

「遺族の心に残るのは、儀式としての葬儀ではなく、棺の中で安らかな顔をして眠る父の姿。私は葬儀に関わりながら、最後、実の父に触れることさえできなかった。自分が情けなく思えてきたのです」

こうして彼女は、葬儀会社を退職し、湯灌師を育成、派遣する別の会社に再就職した。今では、湯灌師として年間1千人の遺体の旅立ちに立ち会っている。

「家族も拒む姿のご遺体を、なるべく生前に近い状態に復元し、再び家族にお返しする。こんなにも人に感謝される仕事はない。こんな私でも誰かの役に立っているんだというこの充実感は、ほかの仕事では絶対に味わうことができないのです」

出典:AERA 2013年9月30日号

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